読書兎の書庫

読書、音楽、映画、雑記

2016-01-01から1年間の記事一覧

「この世界の片隅に」が何故こんなにも素晴らしいのか。

たまたま連れられて映画を観てきた。 アニメ映画である。「この世界の片隅に」というタイトルである。戦時中の内容だということと、漫画が原作にあるということしか知識はなかった。 観て、これは、なんということか、と思った。原作の内容も素晴らしい。映…

須賀敦子「遠い朝の本たち」

父が一九七〇年に六十四歳で死んだとき、私は岩波の日本古典文学大系の揃いを、ごっそりもらった。父は会社をやめたら、一冊ずつ、読んでいくつもりだったのだろう。ほとんど、ページを繰った痕跡のないなかで、平家物語だけは、しっかりと読んだあとがあっ…

「愚痴と感情」

昔はてなブログをやっていて、その頃は色々と生活のことをつれづれと書いていた。でも今はそれをあまりやろうとは思わない。なぜならSNSやあらゆるネットコミュニケーションはそれで溢れかえってしまっているからだ。 たとえば森の、木々の色や、山の土の上…

まだ読んでいないけれどそのうち、たぶん、読む本たち1

遅読積読で全然ブログが描けないので、これから読む本とか読んでる本を。 まず「歌の祭り」ル・クレジオ と、これ。 物質的恍惚 (岩波文庫) 作者: ル・クレジオ,豊崎光一 出版社/メーカー: 岩波書店 発売日: 2010/05/15 メディア: 文庫 購入: 3人 クリック: …

「世界の複数性について」と「偶然の統計学」ーーかくもいかようにも世界は捉えられる。

今日は幾つかの齧った本のメモ。 世界の複数性について 作者: デイヴィッド・ルイス,出口康夫,佐金武,小山虎,海田大輔,山口尚 出版社/メーカー: 名古屋大学出版会 発売日: 2016/08/22 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (4件) を見る 様相実在論を擁護…

「ぼくらはそれでも肉を食う」 ⑵

「ぼくらはそれでも肉を食う」読了。 子ネコを見てメロメロになる人が、ミンクの毛皮の肌ざわりを愛せることくらいで驚いてはいけない。 「人は言うこととやることがしばしば食い違う。」 心理学者たちのあいだでは、以前からよく知られた事実があり、人間の…

独りのときの堀込泰行

One アーティスト: 堀込泰行 出版社/メーカー: 日本コロムビア 発売日: 2016/10/19 メディア: CD この商品を含むブログ (1件) を見る 今回は本の話ではないですが、元キリンジである、かの麒麟児兄弟の弟、堀込泰行氏のアルバムが発表されました。 キリンジ…

ジョン・ケージ、音楽愛好家たちの野外採集の友、音楽というものへのとらえ方について。

今回は、最近ディビッド・グラブスさんが出した、「レコードは風景をだいなしにする-ジョンケージと録音物たち」のほうで書こうかとも思いましたが、こちらにしました。 ディビッドさんはその昔ジム・オルークと一緒にガスターデルソルというバンドをやって…

川上未映子「あこがれ」

あこがれ 作者: 川上未映子 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2015/10/21 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (11件) を見る 川上未映子「あこがれ」 前半の話「ミス・アイスサンドイッチ」 を読みました。 川上未映子さんは初めて読みましたが、ぼくは…

「ぼくらはそれでも肉を食う」その①

ぼくらはそれでも肉を食う―人と動物の奇妙な関係 作者: ハロルドハーツォグ,Harold A. Herzog Jr.,山形浩生,守岡桜,森本正史 出版社/メーカー: 柏書房 発売日: 2011/06 メディア: 単行本 購入: 8人 クリック: 937回 この商品を含むブログ (34件) を見る 文化…

村上春樹「女のいない男たち」について⑵

昨日、村上春樹「女のいない男たち」についての文章を書き、散々脱線してしまったので2日目です。 女のいない男たち (文春文庫 む 5-14) 作者: 村上春樹 出版社/メーカー: 文藝春秋 発売日: 2016/10/07 メディア: 文庫 この商品を含むブログを見る 昨日の最…

村上春樹「女のいない男たち」について⑴

2年前(2014年)に出された村上春樹の短編集、「女のいない男たち」を読了した。 村上作品は、単行本で出されているものは殆ど全て読んでいて、その面白さや、示唆や、無意識というか、潜在意識を軸にした物語のつくりも、思春期冷めやらぬ未だ高校生の頃か…

グリムショウの理想の島

「自然界には、色も音も感触も模様も美も香りも―そのようなたぐいのものは何も存在しないといことに、気づいてもらいたい。」 ジョン・エックルス(神経学者) その昔に読んだ、養老先生の唯脳論という本は、脳と意識について考えるきっかけになりましたが、…

塩一トンの読書

「自分で読んでみる」という、私たちの側からの積極的な行為を、書物はだまって待っている。現代社会に暮らす私たちは、本についての情報に接する機会にはあきれるほどめぐまれていて、だれにも「あの本のことなら知っている」と思う本が何冊かあるだろう。…